地獄島の要塞/ジャック・ヒギンズ
- 作者: ジャック・ヒギンズ,沢川進
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1974/08
- メディア: 文庫
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サヴェージの厳しくニヒルかつホットな性格が物語の雰囲気を決定付ける。しかし話の展開は、冒険譚に猪突猛進しない。サヴェージとサラの恋愛模様(身分の違い、サラの宿痾も絡む)、サヴェージとカシムの友情、海の仕事の厳しさ、サヴェージの戦中の回顧等々の周囲をくるくる旋回して、エピソードを重ねる。こうして主人公の置かれた立場と状況を明らかにした後、おもむろに、《地獄島の要塞》に潜入するのである。この脱獄計画に関するプロットもよくできており、読み応えのある作品であるといえよう。
ただ、これは個人的嗜好の問題に過ぎないのだが、もうちょっと重い筆致で、登場人物をじわじわ燻り出した方が良かったかも知れない。物語中の《現在の潜入劇》と、それまでの部分につき、後者をもっと上げて、前者はもっと切り縮める方が好みだった。または全体をもっと長くするか。『鷲は舞い降りた』より長大化させることも十分できたはずではあろう。正直、若干中途半端であるように思われた。でもいい作品ですよ。お薦めです。