不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

マダム・タッソーがお待ちかね/ピーター・ラヴゼイ

マダム・タッソーがお待ちかね (ハヤカワ・ミステリ文庫)

マダム・タッソーがお待ちかね (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 1888年3月、ロンドンの写真館で助手を務める男が殺される。捜査の結果、写真館の館主の妻(自白した)が逮捕され、死刑判決を言い渡される。しかし、死刑執行12日前になって、彼女の有罪を疑うに足る写真が警察に送付されてくる……!
 解説は瀬戸川猛資で、これに何を付言すればいいのか、という感じだが、著者お得意の、ヴィクトリア朝の空気をたっぷりと味わうことができる佳品。幕間に挟まれる、関係あるんだかないんだかよくわからない、死刑執行人のパートが(彼自身は非常にマトモな人だけど)迫り来る死刑を演出して、実にうまい。真相も明かされてみればなかなか面白い。
 大向こうを張るような派手さはないけれど、地味というほどでもなく、落ち着いて作品に浸れば割と広い層が楽しめるんじゃないかと思う。短いこともあり、お薦めです。