不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

七胴落とし/神林長平

七胴落とし (ハヤカワ文庫 JA 167)

七胴落とし (ハヤカワ文庫 JA 167)

 未成年者は、他人と意識を共有することができる。逆に言えば、他人と意識を共有することができなくなれば、それが成人ということである。そんな世界設定をベースに、《予備校》に通う19歳の少年が、自分からいつ共感能力がなくなるのかと戦々恐々としつつ、幻のような少女と、共感能力の悪用を嬉々としてやる少女の言動に巻き込まれ、更に、ボケてしまった自分の祖父が所有する妖刀《七胴落とし》に魅入られて……という物語。
 《大人は何もわかってくれないんだ!》《大人になんかなりたくない!》という意識を主眼に、性や死を意識することも巧みに盛り込んで、成人することをSFとして昇華した物語。お得意の現実崩壊もおこなわれるが、強烈な混乱を惹起するものではなく、妖美な幻想性を醸し出すことに成功している。筆致が冷たいこともあり、かつて自分も少年少女だったことを忘れしてしまった大人でも読み通すことはできるだろう。しかしこの作品が真に訴えかけるのは、かつて少年少女だったことが忘れられない哀れな大人たちに対してである。このラストの寂寞と苦味は、自分の現在に自信満々なタイプの《大人》には決して理解できないだろうな……。
 私は傑作だと思う。