不壊の槍は折られましたが、何か?

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言葉使い師/神林長平

言葉使い師 (ハヤカワ文庫 JA 173)

言葉使い師 (ハヤカワ文庫 JA 173)

 神林の様々な作風を味わうことができる、ページ数の割に贅沢な短編集。《きみとぼく》の萌芽ととれないこともない、個人的な狭い人間関係回りが、世界に直結した作品が多数を占める。
 しかしだからこそ出る美しい情緒がある。《現実》の揺らぎと、その揺らぎを泰然と受け止める、そんな静謐な雰囲気がたまらなく愛しい。確かにこの短編集で開陳される感傷性は、マザコンSFと解釈することもできる「甘やかな月の錆」をはじめとして、面前で同様のことを生のまま滔々と語られたらドン引きするようなものが多い。しかし、これは小説である。読者は共感し理解することを要求されていない。単に鑑賞すれば良いだけだ。ならばこれで構わないではないかと強く思う。
 神林長平入門には適しているかもしれない。お薦め。