不壊の槍は折られましたが、何か?

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怪奇探偵小説名作選10 香山滋集 魔境原人/香山滋

 人見十吉が活躍する短編を全て収めた一冊。人見十吉というのは探検家で、世界の様々な秘境で、無茶苦茶な大冒険と大恋愛を繰り広げる。そしてむろん、毎回女性が違うし舞台も異なり、長年にわたって活躍しているのに歳をとらない(ようにしか見えない)。時系列とかシリーズに通ずるプロットを構築しようという意図はほぼない。
 以前読んだら香山滋はダメだった旨の記述を本ダイアリーに付けた気がする。しかしそれを謹んで撤回させていただきたい。本冊を読むことで、私と香山滋の歯車は遂に噛み合い、なるほどこれは一部で絶賛されていることもわかる、素晴らしい作家だと思った。
 とにかく各短編、《んなアホな》という秘境ぶりが素晴らしい。空飛ぶ部族でさえまだ甘いわけで、しかもそれを、熱気溢れる人見十吉の行動と、超熱い恋愛劇が彩るのである。難しいことは考えてはならない。批判的な読み込みも断じて不可*1。ノリノリで読むのがもっとも好ましい読み方であろう。しかし、油断していると、とても美しい情緒が流れたりして侮れない。
 ゴジラの根底にはこういった、熱いお馬鹿の血潮が流れていたのである。核兵器云々という御託を並べた日本版ゴジラよりも、アメリカ版ゴジラの方が香山滋の持ち味に近いかもしれないと思った。いずれにせよ物語としての質は、香山滋の圧勝に終わるわけだが。

*1:別に批判するなと言っているわけではなく、冷静に瑕疵を拾い上げて検証し、瑕疵の程度や数によって厳格に減点してゆくような読み方では楽しめない、と言っているに過ぎない。ご留意を。