不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

われら殺人者/天藤真

 恐ろしいことに、一向にレベルが落ちない(その気配すらない)、天藤真の短編集。推理クイズ的に、出題編は普通に小説で、回答編はトリックを明かすだけで終了する「夜は三たび死の時の鐘を鳴らす」のみ、少々味気ない。しかし他は、サスペンスをベースに、趣向を凝らした作品が揃う。後味も(変な意味ではなく)良い/悪いを越えて残るものがある。「金瓶梅殺人事件」はオチが結構やり過ぎで笑いましたが、内実はかなり深刻。児童向け作品でさえ、事情は大して変わらないのだから、恐るべしである。
 アイデアの鮮やかな閃き、スッパリと鋭利な断面を見せる人生模様といった要素は少ないが、温かく読者を包む人間ドラマ、そしてその温かさの中に、人間という存在のどうしようもない不気味さ・暗さ、そして歪みが潜んでいる。
 最近は感想がずっとこんな調子で申し訳ないが、面白いから仕方がないではないか。まとめ読みしているためでもあろうけど。