不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

わが師はサタン/天藤真

 再読。
 謎の男アスタロトを導師として、金城学園大学のマジック研究会の部員6名(男女同数)は、オカルトの力を駆使し、学園の革命に乗り出すのであった。最初は、学園の悪徳を体現する(と噂される)教授夫妻の妻の方を攫って、黒ミサで懲罰を加えてやるのだ!!
 鷹見緋沙子名義で出された、この作家の異色長編……ということなのだが、実はそんなに異色でもない。爛れた空気がほぼ全編にわたって流れるのは珍しいし、ユーモア色も他の作品ほどには強く打ち出されない。しかしプロットはなかなか曲折して、ミステリ的な手札の隠し方は相変わらずうまい。また、話の転がし方がうまく、読者の興味を終始惹き付けてくれる。そもそも、オカルティックな性的雰囲気をあれほど撒き散らしているにもかかわらず、よく考えると乱交状態に陥らないばかりか、処女を捧げるだの捧げられるだのが問題になる(この期に及んで気にするのはそのレベルかい!)辺り、紛れもなく天藤真だと思う。そしてラストは、悲劇でも惨劇でもないが、妙に苦いものを残すのであった(ここら辺はいつもどおりか)。確かに素晴らしい傑作と称することはできないかも知れない。しかし天藤真のアベレージを下げるような作品ではないのではないか。ファンはもちろん必読。
 なお同時収録の、同じく鷹見緋沙子名義による「覆面レクイエム」も、確かに天藤真として考えると比較的性的描写の多い作品ではあるが、一応しっかり出来ているし、彼の不名誉になる作品ではないと思った。