不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

殺しへの招待/天藤真

殺しへの招待 (創元推理文庫―天藤真推理小説全集)

殺しへの招待 (創元推理文庫―天藤真推理小説全集)

 
 再読。
 五人の男に、差出人不明の殺人予告状が送られてくる。どうやら、ある女(差出人)が自分の夫を殺す予定で、その夫が宛先の五人の中に含まれているらしいが……。差出人にセッティングされた会合に出て来たのは四人の男。お互いに見知らぬ間柄だった。残る一人が鍵を握るのか?それとも?
 影をふんだんに含んだシチュエーション・コメディ天藤真の筆は、夫婦という関係性に皮肉に切り込む。登場人物への優しい視線は確固たるものがあるけれど、だからと言って作者は登場人物を決して甘やかさず、千尋の谷に突き落とす。物語の紆余曲折も、相変わらず本当によく考え抜かれており、トリックもなかなかに興味深い。最初から最後まで読者をまるで飽きさせない。これまた名作たるに相応しい作品である。
 なお、若竹七海の本巻解説は本当に素晴らしい。天藤真の本質を射抜いているように思われる。『殺しへの招待』もそうだが、一見ユーモアタッチだが実は殺伐・荒涼・寂寞とした世界。さすがは同じく殺伐系の作家、同族の匂いを嗅ぎ付けたようだ。