不壊の槍は折られましたが、何か?

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怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像/蘭郁二郎

 1931年から43年にかけて活躍した探偵小説作家。「その割には」などと言うと色々な誤解を招きそうだが、とにかく非常に読みやすい。するするサクサク読めて、その最中にはとても楽しく、そして「ああ面白かった」と言った後、全てを忘れてすぐさま次の本に取り掛かれる。そんな気安さがあって素晴らしい。扱っているものが怪奇と幻想で、こういうのは良くも悪くもインパクト勝負になるのが普通だが、蘭郁二郎の読後感は、いい意味で後に何も残らない。珍重すべき存在といったところか。
 なお中でも、2ページもない「舌打ち」辺りは、「あるあるある」という感じを実に鋭く打ち出しており、大好きである。
 とにかく、広くお薦めしたい作家。