不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

鈍い球音/天藤真

 万年最下位だったプロ野球球団・東京ヒーローズは、桂監督(虎髭がトレードマーク)の指揮下、リーグ優勝を果たし、2日後からいよいよ日本シリーズに入る。敵は大阪ダイヤ、桂監督の古巣にして何故か追い出された因縁の相手なのであった。
 そんな中、桂監督は謎の相手との会談があるとして東京タワーの展望台に入るが、虎髭を残して失踪してしまうのだった。とりあえず東京ヒーローズは、ヘッドコーチを代理監督に据えて日本シリーズに入るが、形勢不利は否めない。ピッチングコーチの立花と桂監督の一人娘・比奈子の要請を受け、立花の友人で新聞記者の矢田貝今日太郎は、社でチームを編成し捜査を開始する……。
 例によって面白そうな設定と、実際に面白く、かつ手の込んだプロット。プロ野球の光と影*1を描出すべく、様々な要素が持ち込まれ、話は錯綜するのだが、読者を混乱させることは決してない。本当に上手いとしか言いようがない。《進め、若者よ》という一言が、私の涙腺を撃ち抜きそうになったことも申し添えておきたい。
 なお、処女を重視・神聖視することに代表される、天藤真の旧弊な潔癖性が長編において恐らく初めて明確に打ち出される点で、ファンには興味深い一作でもある。

*1:戯画化されているとはいえ、現在でも根本的には似たような部分があると思う。