不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

皆殺しパーティ/天藤真

 再読。
 富士川市の事実上の支配者である吉川太平。彼は過去、あこぎな手法で数々の人間を泣かせ、それを全く気に病んでいなかった。そんな彼を殺害する計画の存在が判明し、警察はもちろん、吉川太平も秘書を使って独自の捜査を開始する……。
 原則として吉川太平の一人称で進行する。吉川太平は、設定上は典型的な金満家であり、後ろ暗い過去実績を満載し、しかも悪びれていないという、実に嫌な奴だ。通常の場合、このような登場人物は外側から描写され、《殺されても仕方のない人物》《ムカつく人物》と認識されるはずだ。ところが彼を一人称として、言動・思想こそ悪辣なものの、一方で柔らかく、また金と権力についてある意味ピュアな感受性を通して、《共感》が可能な主人公になりおおせている。そしてこのことが、『皆殺しパーティ』の成功を半ば以上保証している。
 もちろんキャラ以外でも、たとえばプロットやテーマ性、サスペンスフルな展開、そして何よりもあの最後の一文!もまた、本当に素晴らしい。メタ的視点からは、創造物への天藤真の愛情が垣間見れる作品でもあり、ファンは必読、それ以外の人にも是非読んで欲しい作品と言えるだろう。