不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

死の内幕/天藤真

 籍を入れないで内縁関係を続けると称する、千葉の女性3人組(啓子、奈美、ます子)。ところがうち1名が、相手の男(婚約者が別にできたらしい……)を、別れ話がこじれて殺してしまったと報告してくる。そんな屑男のために人生を棒に振ることはないと、他の2人は、啓子の男・松生の助力も頼み、いもしない容疑者の目撃証言をでっち上げるのであった。
 ところが千葉の製鉄所に勤める青年・矢尾が、出鱈目の容疑者人物像にそっくりだった。秘書課の女性や、矢尾の社外の友人は、彼が犯人であるわけがない、これは目撃者たちのでっち上げに違いないと、矢尾を匿った上で捜査を開始する……。
 内縁グループと、矢尾グループ、そして被害者の婚約者中心のパートが交互に登場し、徐々に一本にまとまってゆく展開は見事。それぞれの登場人物が活き活きとしているのも素晴らしい。プロットの立て方が非常にうまく、真相の隠し方も堂に入ったものだ。ユーモラスな筆致の影に、それこそ本当に《影》とでも呼ぶべき深刻な何かが潜んでいるのも、作品に奥行きを与えている。男女関係に投げ掛ける作者の視線は、温かくもあるが、一方でシニカルでもある。
 天藤真の長編中、質量共にもっとも軽量級だが、作り込みは丁寧かつ手が込んでいるし、さすが寡作の大作家といったところ。代表作でこそないが、持ち味は十分出ているので、天藤真ファンにはお薦め(持ち味が出ていない作品を探す方が大変ではあるが)。