死の内幕/天藤真
- 作者: 天藤真
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1995/03
- メディア: 文庫
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ところが千葉の製鉄所に勤める青年・矢尾が、出鱈目の容疑者人物像にそっくりだった。秘書課の女性や、矢尾の社外の友人は、彼が犯人であるわけがない、これは目撃者たちのでっち上げに違いないと、矢尾を匿った上で捜査を開始する……。
内縁グループと、矢尾グループ、そして被害者の婚約者中心のパートが交互に登場し、徐々に一本にまとまってゆく展開は見事。それぞれの登場人物が活き活きとしているのも素晴らしい。プロットの立て方が非常にうまく、真相の隠し方も堂に入ったものだ。ユーモラスな筆致の影に、それこそ本当に《影》とでも呼ぶべき深刻な何かが潜んでいるのも、作品に奥行きを与えている。男女関係に投げ掛ける作者の視線は、温かくもあるが、一方でシニカルでもある。
天藤真の長編中、質量共にもっとも軽量級だが、作り込みは丁寧かつ手が込んでいるし、さすが寡作の大作家といったところ。代表作でこそないが、持ち味は十分出ているので、天藤真ファンにはお薦め(持ち味が出ていない作品を探す方が大変ではあるが)。