不壊の槍は折られましたが、何か?

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探偵小説四十年(下)/江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第29巻 探偵小説四十年(下) (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第29巻 探偵小説四十年(下) (光文社文庫)

 昭和13年〜36年までを綴る。年が進めば進むほど、記述が簡単になってゆく。乱歩自身は「戦後の出来事は知友の記憶にも新しいと思うので、ことさら詳記する興味が起こらないのである」としているが、実態は果たしてどうだったのか。最近のことは知人も読むし、書いた瞬間に歴史的事実として冷静に見られるわけでもないので、ひよったのだろうか。それとも他に何か事情があるのか……。
 やはり終戦までの記述が興味深い。人嫌いであったはずの乱歩がどんどん社交的?になってゆく様が印象に残る。とはいえ、一人称によるガチガチの個人視点なので、ラディカルに人格が変容したという感じも受けず、彼の人生が淡々と平明に語られる。そして、戦後は何だかただの名士っぽい。乱歩を《外》から書いたまとまった文章があれば当たってみたい気もします。