不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

怪奇探偵小説名作選 橘外男集 厨子物語/橘外男

 二部構成で全10篇。PARTⅠは海外実話(といっても本当に実話ではなく、海外冒険譚と言った方が正確)、PARTⅡは日本怪談。
 まず前半。外地(特にアフリカ*1・南米)に対する偏見バリバリの小説は、従来それほど好きではなかったのだが、これは楽しめた。他の作家・作品と比べて特に何か違った部分があるとも思わなかったので、単に私の方に耐性が付いて来たと言うだけだと思うのだが、一方で、繰り出した白人の間でのドラマにも重きが置かれており、「未開地ヒドス」というノリだけで進行していないのが要因かもしれない。あと、「女豹の戦士」だけは、女性医学者の悲しいマッドサイエンティストぶりを描いており、未開地云々は出て来ない。これはこれで楽しめる一編であった。
 日本怪談集の方もなかなか面白い。全5編まさに怪談なのだが、侘び寂びを伴っており、安らぎとも受け止められる情感さえ漂う。幽玄の境を決して恐怖として捉えていないのが印象的であり、味わい深い。
 総じて、耽美的な文体だが読みやすく綴られており、結構広くお薦めできるのではないだろうか。ただし、「令嬢エミーラの日記」*2で、語り手が《この日記を読むだけでは、女性の名前が全くわからず、遺族へ返しようがなかった》とぼやくシーンがあるのだが、日記には思いっきり、以下のように書かれている。語り手が読み手として怠慢だったというか、ちょっと不手際だったなあと思った。まあ大した瑕疵ではないと思うが。

 私は学者ゲイレックの娘なのだ!

*1:もちろん暗黒大陸呼ばわりされるわけですよ。

*2:語り手が、アフリカ奥地で若い白人女性の死体を発見し、彼女が綴ったと思われる日記を紹介する、という体裁をとる。