怪奇探偵小説名作選 橘外男集 厨子物語/橘外男
- 作者: 橘外男,日下三蔵
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2002/06
- メディア: 文庫
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まず前半。外地(特にアフリカ*1・南米)に対する偏見バリバリの小説は、従来それほど好きではなかったのだが、これは楽しめた。他の作家・作品と比べて特に何か違った部分があるとも思わなかったので、単に私の方に耐性が付いて来たと言うだけだと思うのだが、一方で、繰り出した白人の間でのドラマにも重きが置かれており、「未開地ヒドス」というノリだけで進行していないのが要因かもしれない。あと、「女豹の戦士」だけは、女性医学者の悲しいマッドサイエンティストぶりを描いており、未開地云々は出て来ない。これはこれで楽しめる一編であった。
日本怪談集の方もなかなか面白い。全5編まさに怪談なのだが、侘び寂びを伴っており、安らぎとも受け止められる情感さえ漂う。幽玄の境を決して恐怖として捉えていないのが印象的であり、味わい深い。
総じて、耽美的な文体だが読みやすく綴られており、結構広くお薦めできるのではないだろうか。ただし、「令嬢エミーラの日記」*2で、語り手が《この日記を読むだけでは、女性の名前が全くわからず、遺族へ返しようがなかった》とぼやくシーンがあるのだが、日記には思いっきり、以下のように書かれている。語り手が読み手として怠慢だったというか、ちょっと不手際だったなあと思った。まあ大した瑕疵ではないと思うが。
私は学者ゲイレックの娘なのだ!