不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

新国立劇場

  1. マスカーニ:歌劇《カヴァレリア・ルスティカーナ》
  2. レオンカヴァッロ:歌劇《道化師》
  • ガブリエーレ・シュナウト(サントゥッツァ)
  • 山下牧子(ローラ)
  • アルベルト・クピード(トゥリッドゥ)
  • 小林由樹(アルフィオ)
  • 三輪陽子(ルチア)

 以上《カヴァレリア・ルスティカーナ》

 以上《道化師》

 ヴェリズモ・オペラ二題。1950年代に時代を移していたが、特段変な解釈は見せず、痴情による惨劇を的確かつオーソドックスに描いていた。こうなると、ヴェルディ以前(=伝説や昔話、歴史上の逸話に材を求める)と比べ話事態が段違いに等身大となっているため、非常に骨身に応えるのも事実。特に、《道化師》の幕切れでトニオが見せるせせら笑い*1は見ていてキツかった。叶わぬ恋なら、皆死ねば良い。ルサンチマンのなせる闇の勝利、しかしそこには充実感などあるはずもなく、ただ虚しさがこみ上げるのみなのである。しかし私は、以下のように考えている自分に気付き、愕然とした。「何もしないよりは、この方がマシ。たとえこの上なく空疎であっても、勝利は勝利だ」……そっと忍び寄るルサンチマンの影を見事に映し出した歌劇であり、演出であったと思う。
 音楽的には非常に充実していたと思う。歌手では中でも、クピードとフランツが貫禄であった。他も押並べて好演。指揮も評判どおりの素晴らしさ。場面場面でくっきり隈取を付けていて舌を巻く。もっと上質のオーケストラで聴きたいと思いました。

*1:狂ったカニオに殺害されたその妻ネッダと情夫シルヴィオ、そして自失するカニオを見下ろしながら。もちろんトニオはネッダに横恋慕し、手酷く袖にされている。