不思議島／多島斗志之

不思議島 (徳間文庫)

　伊予大島の中学教師・二之浦ゆり子は、島の診断所に赴任してきた青年医師・里見了司に、村上水軍絡みの伝説である不思議島探しに誘われる。その伝説の論理的解釈はあっさりゆり子がおこなうのだが、その際出かけた伊予大島周辺の無人島巡りのため、ゆり子に15年前の悪夢が甦ってくる。そう、当時12歳のゆり子は誘拐され、夜の孤島に置き去りにされたのだ。里見は彼女の話に興味を寄せ、既に時効が成立している誘拐事件の謎を解こうとする……。
　ここら辺を舞台にして展開される物語。ただし、91年の作ということもあり、来島海峡大橋はまだ存在していない。実在の土地（と海）を舞台に、なかなか面白いネタを提示してくれる逸品。すいすい進む端正な文章は、過去の事件を扱うには非常に有効である。また、ゆり子と了司の恋愛や二之浦家の面々を、虚飾や熱気を排して静かに描く。だからこそ、真相が全て明らかになった後、独特の余韻を響かせるのである。
　というわけで、完成度の高い、なかなの良作であると思う。ファンにとっては必読の一冊だし、基本的にトリッキイなサスペンスなので、多島入門にも最適だろう。入手困難なのが最大唯一の問題だ。