クリスマス黙示録/多島斗志之
- 作者: 多島斗志之
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1996/10
- メディア: 文庫
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今はもうバブルが過ぎ去って久しいし、9.11後、米国最大の東アジア懸案事項が中国である等、諸々の条件が『クリスマス黙示録』が発表された89年とは違ったものになってしまった。しかし当時においては、アメリカ一般の日本に対するイメージはこんな感じだったのではないか……ということを、非常に端的・端正に作品に練り込んでいる。特に感心するのは、《人種差別に反対する》といった妙に社会派ばったテーマ、あるいは《鬼畜米英、日本万歳》的なイデオロギーには決して近寄らないことだ。アメリカに流れていた《日本はちょっとなあ……》的な空気の纏い方が絶妙。「同時代に書かれた作品なんだから、これ位できて当たり前」と言う人もいるかも知れない。しかし私は、《感じ取ったことを作品に反映させるのは、非常に難しいことだ》と主張したい。ましてや、作者の筆は沈着なのである。何この《後年、落ち着いてから振り返って書きました》的な佇まい。
そして、以上の下地を作ったうえで、非常に平明な筆致で、淡々かつ着々とサスペンスを盛り上げてゆく。躍動感が強くない反面、作りは非常に丁寧だ。意外性も一応用意されているし、相変わらず非常に独特な作風である。タミの造形もなかなか良い。ファンは必読と思われる。