不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

復活の日/小松左京

復活の日 (ハルキ文庫)

復活の日 (ハルキ文庫)

 インフルエンザに似た症状を呈し、しかし脊椎動物に対しては致死率100%のウイルス性疾患(実は生物兵器)が、瞬く間に世界中に広まり、人類その他が絶滅の危機に瀕する物語。南極では1万人程度が生き残っているが、女性は16人しかおらず、南極で作られた委員会によって受胎等々は管理されるのであった。
 物語の過半を割いて、小松左京は人類文明が疫病により崩壊する様を、じわじわ、そしてじっくり描く。これが物語最大の特徴兼魅力だ。視点人物はたくさんおり、それは、人種も職業も性別も何もかもバラバラである。しかしそれゆえに社会全体が多面的に描き出され、ゆえに全てが破滅することを我々に《実感》をもって示す。また、個人レベルの感情の揺れ動きも明確に打ち出されるため、読者の感情に訴えかけてくる側面もある。
 物語の終盤は、自動核戦争システムが起動し、南極にミサイルが飛んで来ることを恐れが出て来たため、頑張って止めに行くのが主眼となる。そしてタイトルどおり《復活の日》が訪れる。雌の個体数が16という状況は変化しないので、それでは早晩絶滅ではないかと思うのだが、まあそこは知性と理性で何とかするんでしょう。
 小松左京の基本姿勢は、人類の偉大な知性を、自らを滅ぼすような戦争のために駆使せず、もっと高邁な文明を築き上げるために使おう、というもの。ときに登場人物は演説さえおこなうのだが、それが全員学者である辺り、小松左京が知性に絶大な信頼を置いているのがわかり、大変かわいいといえよう。
 これを読むとしばらく、風邪引いてそうな人がちょっと怖くなること請け合いだ。傑作であり、センスオブワンダーにしか興味がない人や、《60年代後半は実際にはこうならなかったじゃねえか、SF作家のくせに未来予測できなかったのかプゲラ》という馬鹿以外には、広くお薦めしたい。