不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

異郷の帆/多岐川恭

Wanderer2006-02-19

 元禄4年(1691年)、長崎の出島で起きるオランダ商人殺害事件を描く。通詞補・浦恒助、混血美女のお幸、ポルトガル人であり宗教を捨て日本に帰化した西山久兵衛=クリストファ・ラザルス、そしてもちろんオランダ商人などなどが絡み、なかなか味わい深いドラマを展開する。
 基本的には、鎖国に翻弄される人々が醸し出す、このドラマが全て。ミステリ的な要素は、よく練られてはいるので、作品の質に貢献している。けれども要ではなく、高級な添え物と考えれば良いと思う。全体的に、『濡れた心』よりも人工臭は少ないと思います。別に『濡れた心』が人工的だからダメだ、と言ってるわけじゃありませんがね。そんな感じ。
 というわけで、名作。「江戸時代ということで、色々古臭いんじゃないか」という危惧は杞憂というものだ。広くお薦めしたい作品である。