濡れた心/多岐川恭
- 作者: 多岐川恭
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1977/03
- メディア: 文庫
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多彩にして美麗な文体で綴られる、多様な愛の形。主要登場人物はほぼ全員、同性愛・異性愛問わず、色恋沙汰関係で悶々としている。色恋沙汰に直接関係しない人物も、側にいる悩み多き人々に影響され、雰囲気は沈みがちだ。そして全ての叙述は、日記という形で一人称によりおこなわれる。登場人物の内面はかなり克明に記され、読者をドロドロした世界へと誘う。この点がなかなか良い。
一方、トリック面では若干問題がある。よく作り込まれてはいて基本は感心するのだが、実現は恐らく不可能であろう。より正確に言えば、実現しようと思ったらかなり頑張る必要があるうえに、命を張った博打さえうたねばなるない。私だったら、露顕しないという保証があっても尻込みすると思う。
とはいえ、だからと言って特段の問題もないようには思う。先述の雰囲気が全編を覆い、様々な恋愛模様を楽しむことができるのであり、なかなか面白い。多岐川恭は練達の名手で、筆運びがたいへんうまかったように記憶する。この特徴はデビュー作から出ていたことを確認でき、非常に意義深い読書であった。もちろん、何も考えずに読んでも楽しめるはず。読みやすくかつ薄い作品でもあり、是非多くの人に読んで欲しい作品だ。