不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

くじ/シャーリイ・ジャクスン

くじ (異色作家短篇集)

くじ (異色作家短篇集)

 小粋な短編集である。しかし、頓知の効いた作品はほとんどなく、あまりこの表現は使いたくないのだが、普通小説がほとんどを占める。微妙な機微をこれまた微妙に物語に溶かし込む作風で、文章もさらさら流れるのだが、いまいちインパクトに欠けているように思われた。時々ニヤリとさせられることも確かだし、質的に悪いということは絶対無いはずだ。この手の小説を読み込むモードを持ち合わせないことを悔しく思う。しかしこれ、なぜ異色作家短編集に突っ込まれているのだろう。表題作を除けば、ほぼ一般文芸の世界だと思うんだけどなあ。奇妙な味もほとんど感じなかったし……。いや別にいいんですよ。こういう機会に、あまり接触のなかったタイプの小説に触れられるのは大変ありがたいです。
 23編が入っているので、一々粗筋書きません。というか、それなりに細切れで読んだので、もう忘れているし。印象に残ったのは「曖昧の七つの型」かな。読書家としての暗黒面を巧みに突かれた感じ。苦笑ですよ。作品に対してではなく、この気持ちがちょっとわかってしまった自分に対して、ね。