不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

湖中の女/レイモンド・チャンドラー

Wanderer2006-02-08

 マーロウは、化粧品会社の社長デレイス・キングズリーから、ここ一ヶ月行方のわからない妻のクリスタルの捜索依頼を受ける。夫婦関係は最近冷え込んでいて、クリスタルは《愛人のクリス・レイバーと一緒に旅をする》と言い置き出て行ったのだが、デレイスと酒場で偶然出くわした当の愛人は、クリスタルと旅をしたこともないしその予定もないと否定した。では妻は何をしにどこへ行ったのか。
 仕事を請けたマーロウは、まずクリス・レイバーの家に行くが、向かいに住む医師がこちらをちらちら見ていたり、地元の警官にも目を付けられたりで、何か怪しい。そして続いて、キングズリー家の別荘に赴いたところ、その管理人ビル・チェスと一緒に、湖中で女の死体を発見する……!
 プロットがいい感じで錯綜する。なかなか一筋縄で行かない辺り、ミステリとしても読み応え満点。マーロウのクールな一人称も相変わらず素晴らしく、乾いたニヒリズムと、裏腹の情にもとづく、独特の抒情・情感を確立している。その気になればサクサク読み飛ばせるが、敢えてじっくりと読みたい作品。というか、じっくり読まないと魅力をなかなか理解できないのではないだろうか。
 なお聞き込み時に、マーロウが「ファイロ・バンスです」と偽名を名乗るシーンがあって、吹いた。