不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

パンドラ抹殺文書/マイケル・バー=ゾウハー

Wanderer2006-02-06

 再読。
 ソ連でスパイ活動をしていた工作員が捕まってしまう。そしてそこから得られた情報にもとづき、ブレジネフとアンドロポフの元に、KGB最上層部にCIA工作員《パンドラ》が潜伏しているとの報がもたらされるのであった。ブレジネフはアンドロポフに、その工作員を暴き立てることを強く求める。一方《パンドラ》はCIAに助けを求め、米国大統領のサインにもとづき、彼または彼女を救う作戦が開始される。
 そんなある日、ロンドンの大学院生リチャード・ホールが公立記録保管所の閉架図書を頼んだところ、間違った書類が届けられてしまう。彼は一読、それが非常に面白い書類であることに気付く。そして自宅に持ち帰り、恋人のシルヴィー・ド・セリーニに自慢しようとするが……。
 登場人物一覧に《主人公》と記載されている男ジェームズ・ブラッドリーが登場するのに100ページかかるが、その前だろうが後だろうが、ストーリーは非常にめまぐるしく展開し、随所で二転三転する。テンションも終始高く、読者は息つく暇なく物語にのめり込むことができるだろう。諜報戦は様々な人間の人生を翻弄しながら、奇怪にして奇態な全貌を、主人公と読者に見せる。登場人物がわかりやすく造形されているのも、エンタテインメント小説としての魅力を強め、しかも人間ドラマとしても決して安手に陥ってはいないのである。
 完成度も非常に高く、バー=ゾウハーの最高傑作の一つとして高く評価したい。来月早川から新装復刊されるので、この機会に是非、多くの人に謀略エンタメの至芸を楽しんでもらいたいと思うのであった。