不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

エニグマ奇襲指令/マイケル・バー=ゾウハー

Wanderer2006-02-05

 再読。
 連合軍のノルマンディー上陸作戦が間近に迫ったある日。イギリスは、ナチス=ドイツの最新ロケット兵器完成の情報を入手した。兵器詳細を知りたいが、その為には暗号機エニグマによって打ち出される通信文を解読しなければならない。つまり、エニグマを盗難しなければならず、かつ、その盗難にドイツ側が気付かないことが必要である(気付いたらエニグマの使用が停止されてしまう)。
 ……ということで、折も折、仲間の裏切りによって不幸にもイギリスに捕縛されていた怪盗ベルヴォアール(仏駐留のナチスから金塊を奪った実績あり)に、情報部上層部はこの仕事を依頼する。スリルを求める冒険心を巧みに突かれ、ベルヴォアールは仕事を承諾。超一流の変装技術を駆使してフランスに潜入する。しかし当日、イギリスに潜入していたスパイから密かにベルリンのカナリス提督の元へ、イギリスのエニグマ強奪作戦の開始が知らされていた!
 イメージとしては、ルパン3世にナチスと戦うようイギリス軍が仕事を依頼する、と思えば良い。そして上記条件を満たしつつエニグマを盗もうと、色々な勢力との虚々実々の駆け引きが始まるのである。しかも、イギリスの当秘密作戦への対抗のためパリに派遣されたフォン・ベック将校の視点からも話は描かれ、事実上主人公は両陣営に各一名いることになる。このフォン・ベックの葛藤がなかなか興味深く、物語に人間ドラマとしての奥行きを与えている。
 実質的には280ページない作品だし、イベントが数珠繋ぎで発生するため、非常に読みやすい。完成度も極めて高く、素晴らしいエンターテンイメント小説と言えるだろう。バー=ゾウハーの最高傑作の一つとして、広くお薦めしたい。