不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

聖なる侵入/フィリップ・K・ディック

Wanderer2006-01-25

 リビス・ロミーはCY30=CY30B星系の植民星にて処女懐胎する。生まれ出た子はイマニエル(マニー)。2000年前、邪悪な勢力によって地球を追われた唯一神である。リビスとマニーは、リビスの夫ハーバート(ハーブ)・アシャーと共に、邪悪な《帝国》に支配された地球に帰還するが、策略により事故に遭い、リビスは死亡、ハーブは臓器に重大な損傷を受け冷凍睡眠に就き、マニーは神としての記憶を喪失してしまう。6年後、マニーは学校でジナという少女に出会う。ジナはマニーの正体を知っているようで、彼女と過ごすうち、マニーは自分が何者であるかを徐々に思い出してゆく……。
 前作『ヴァリス』と共通する要素が多い作品。引き続き電波ゆんゆんであるが、今回は、少年少女の交流譚という見方ができないわけではなく、また、大人たちのドラマも前作に比べれば理解しやすくなっている。何より、愛の何たるかが比較的ストレートに打ち出され、神学的な考察も今回は比較的わかりやすいし、《ディック教》の内容自体も若干普遍化している。『ヴァリス』に比べいささか読みやすいわけで、大変ありがたい。そして、なかなか希望に満ちたラストを迎えるのである。
 もちろん、『聖なる侵入』をもってディックに入門すべきとは、これっぽちも思わない。しかし私は結構普通に楽しく読んだ。ディックのファンにはお薦めかな。