竜とわれらの時代/川端裕人
- 作者: 川端裕人
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2005/10/01
- メディア: 文庫
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大原まり子の解説が、全てを言い尽くしている。
化石は沈黙して、ただ横たわるのみ。
その巨大な骨を前にして、私たちは恍惚と夢を見る。――「解説――一流の恐竜小説」 徳間文庫版 805p
この《夢》が、この物語の様々な成分、つまり科学、宗教(キリスト教、イスラム教、果ては日本の民俗信仰まで!)、アメリカ論、異文化コミュニケーション、少年の憧れ、イデオロギー、原発、地方自治体間の体面、ジェネレーション移行などである。つまり、《現代=われらの時代》に他ならない。これほどまでに多くの事象が、しかも深く描かれるのは圧巻。作品中では次々にイベントが生じ、時としてスリリングな展開さえ見せ、読者を飽きさせることは決してない。だがしかし、恐竜の存在感はそれら全てを断然圧し、まさに神の如き威儀をもって、物語全体を覆う。そう、この作品はまさに『竜とわれらの時代』と言うほかない。実に素晴らしい、大傑作であると思う。文章も読みやすく、構成もよく考えられている。少しでも川端裕人に興味があるならば、読まねばならない作品だろう。
ただし、懸念事項が一つだけある。古生物学は現実に日々進展し、また世相も凄まじい速さで変転してゆく。この作品中で語られる《竜》と《時代》が全て古びる日は必ず来る。そうなったとき、『竜とわれらの時代』は、相応のエクスキューズ付きでなければ楽しめなくなるのではないか。最新性・同時代性を喪失したとき、この作品はかなりの大ダメージを蒙る危険性がある。読まれるべきは、まさに今、二十一世紀初頭なのではないか。そんな思いを強くする次第である。