不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ジョーンズの世界/フィリップ・K・ディック

Wanderer2005-12-30

 保安警察の捜査官ダグ・カシックが出会った占い師ジョーンズは、「人類の未来」だけを占うという変な奴だった。そして、どうやら一年先の未来まではっきりわかる、ミュータントであるらしい(見てくれは普通)。世界政府は彼を監視下に置くが、折から《漂流者》と呼ばれる謎の物体(単細胞生物?)が太陽系に飛来していたが、これに関する人々の不安をうまく利用し*1、ジョーンズは政府を脅かす組織を創設・発展させるに至る。
 プロローグで、《避難所》と呼ばれる変な施設に放り込まれ、そこから一歩でも出るとヘタってしまう変なミュータントたちが登場するが、彼らがどのように話に絡むかも含め、色々な要素が交じり合う作品。《漂流者》の正体やジョーンズの正体も最後には明らかにされるなど、起承転結への志向が明確に見て取れる。しかし、夢や希望は個人レベルでしか訪れず、社会・世界レベルでの《現実》における閉塞感が明らかな辺りがなかなか興味深い。面白かったです。

*1:といっても、ジョーンズはそれを一年前から予見しているのだが。