虚空の眼/フィリップ・K・ディック
ジャック・ハミルトンはとある研究所に勤める工学者であったが、妻のマーシャがコミュニストではないかとの疑いをかけられ*1、クビか離婚か二者択一を迫られる。そんな中、彼は妻やその他六名と共に、巨大陽子ビーム装置の事故に巻き込まれてしまう。目が覚めると、奇怪な第二バーブ教が世界を支配していた! ひょっとしてパラレルワールドに転送されてしまったのか? ジャックは八名と共に元いた世界への帰還を目指す。
大瀧啓祐の解説曰く、この作品でディックは「ドタバタ喜劇を描くこと」を目指したとのこと。なるほど。確かに本書の中で起きる様々な出来事は、バカSFと考えられ、詳細は語らないが実際笑えるものだ。もちろん、話の根幹にかかわる部分でマッカーシズムが絡み、深刻な要素はある。全編、緊張感が一貫する。しかし各シーンはよく考えるとファルスだし、終わってみると妙に希望があったりして、なるほど喜劇だなと思わされた。
プロットも破綻せず、読んでいて楽しいことも事実、閉塞感もないので、実は入門に適しているのではないか。お薦めです。