不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

偶然世界/フィリップ・K・ディック

Wanderer2005-12-26

 人類の独裁者たる執政庁の最高権力者(クイズマスター)には、ボトルと呼ばれる装置により無作為に選ばれる者か、正規手続きを踏んでクイズマスターを殺害する者が就任する。この際に必要となるのはパワーカード(全人類に支給される)であるが、通常、企業に勤務したり誰かと主従関係を結んだ場合は、企業や主人に没収される。またこの世界では、テレパスが普通に存在する。
 以上の設定下、ボトルの作動により、クイズマスターのべリックが任期十年で解任される。公認はカートライトという、外惑星移住を目指す狂信者グループのリーダーであった。ベリックはカートライトを殺害し、再びクイズマスターに復帰せんと画策する……。
 ディックの処女長編だが、当時のSFガジェットを全開にしている。おもちゃ箱をひっくり返したような騒ぎだ。スピード感溢れるめまぐるしい展開は、緊張感を伴っていてなかなか面白い。ラストにかけて盛り上がってゆくタイプの小説ではなく、最初から最後までテンション高く突進し、終結はいきなり訪れる感がある。起承転結の明確化等の、整然とした進行への関心は薄い。とはいえ、破綻しているわけではなく、一気に駆け抜けるメリットから来る副作用なのだろう。話に身を委ねるような読み方が多分正しい。映画化すると楽しいんじゃないですかね。