不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ユービック/フィリップ・K・ディック

ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)

ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)

 未知の超能力者と対決するため終結した、十一人の不活性者+雇用者。彼らは月面に赴くが……。死の直後に急速冷凍→安息所の棺の中で思考能力保持、という「半生者」になるのが普通、という社会における、SFサスペンス。
 次は誰が殺されるんだろうとか、誰が犯人なのだろうか、などという通常のサスペンスが、もはや通用しないというか、読者としてもどうでも良くなる。代わりに前面に出現するのは、《現実崩壊》である。現実が裂け崩れ世界が退行してゆく様は圧巻。そして迎えるグロテスクな死と、衝撃的な真相。恐怖の余韻たっぷりのラスト。とにかく強烈なサスペンスと言え、死の影が濃厚に付き纏う傑作である。ミステリ・ファンにお薦めかといわれると躊躇するが、ディックに興味がある人は必読ではないか。