不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ロリータ/ウラジーミル・ナボコフ

ロリータ

ロリータ

 主人公ハンバート・ハンバートによる一人称だが、これがもう本当に素晴らしい。異様に饒舌なその語り口は、一種の空転や虚無を自覚的に抱え込み、そしてロリータ/ニンフェットを求める痛切な情感*1を湛え、破滅への驀進を、読者の胸に迫りかねない勢いをもって、如実に表す。ロリコンと聞いた場合に大多数の人間が想像する類のキモヲタ的雰囲気など、ここには微塵もない。あるのはただただ、ナボコフの手による圧倒的に絢爛たる文章表現の迷宮であり、深読みするとジーン・ウルフ並みに大変なことになりかねない、重層的構造を抱えている可能性さえある物語なのだ。
 ロリコンの語源という《話題》や《予断》など、蛆虫どもにくれてやれ。我々はこの神のようなテキストに呑まれるべきなのである。
 というわけで、以上が第一回通読の感想。表現が凝りに凝っているため、一度読んだくらいではどうにもならない。そのうち二回目行きます。

*1:あくまでこの痛切性に重点が置かれており、少女愛そのものに重点が置かれているわけではないことに注意。