不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ゴールデン・キール/デズモンド・バグリイ

Wanderer2005-12-18

 ケープタウンの造船所を経営するピーター・ハローランは、酒場で知り合ったウォーカーが第二次世界大戦時にイタリアでパルチザンをやっており、その際、彼らがナチスの財宝を奪い山中に隠したことを知る。この情報を知った当時、ハローランは「面白い話もあるものだ」というスタンスであったが、最愛の妻が死んでしまってヤケクソになったのか、いきなりやる気を出し、ウォーカーと、南アフリカにいる、もう一人のパルチザン関係者・カーツに声をかけ、一路イタリアに向けヨットで出航するのであった……。
 味方も敵も一攫千金ハァハァという雰囲気がよく出ており、話もテンポ良く進行、アクション・シーンはスリル満点、迫り来る敵、噛み合わず対立する仲間、という感じで、なかなか面白く読んだ。バグリイの処女長編らしいが、なかなかの完成度である。冒険小説好きには広くお薦めしたいが、そもそも冒険小説好きであればバグリイなど全制覇済と思われ、いつもの締めの定型句(○○ファンにはお薦め)が使えず、少々痛い。
 以下、文句というか不安。バグリイの描く女性登場人物はちょっとどうかと思われるのだ。たとえば今回のヒロイン・フランセスカ。ピーターに惚れる理由がよくわからない。ま、そこは男女の機微だからと流しても良いのだが、イタリアのパルチザンのアイドル的存在で、この冒険当時も十分なカリスマ性を備えているという設定にもかかわらず、煎じ詰めればピーターに付いて行きます的ノリでしかないのはまずかろう。パルチザン全体としてはともかく、彼女自身は《冒険に添えられし一輪の花》としてしか機能しておらず、彼女自身の確固たる人格・信念が見て取れない。魅力的登場人物とは思えないのである。女性キャラが《男にとって都合の良いキャラ》というのは、一部の読者の不興を買う要因となりかねず、私の目から見てもバグリイはやり過ぎ。うむむ。残念。