ストリンガーの沈黙/林譲治
ストリンガーの沈黙 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
- 作者: 林譲治
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/11/01
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 20回
- この商品を含むブログ (40件) を見る
メインファクターは、上記3軸の記述順に、システム内で発生してしまったAI、異なる文化背景を持つ人々の対立(と言うよりもほぼ一方的な敵視)、そして精神のありようが人類とはまったく異なる知性体との邂逅である。いずれも認識と相互理解の物語と理解できる。それが緻密なハードSFの意匠をもって、スケール豊かに語られるのであった。非常に素晴らしい。
さて、全編には、発想が卑しい地球陣営vs非常に理智的なAADD陣営、という構図が見て取れる。AADDを理想化し過ぎだとして攻撃する読者が出そうだが、ちょっと待って欲しい。この物語は、テーマがテーマなので、明快過ぎるとさえ思われる対立軸を設定した方がスッキリまとまる。「人間は一人の中にも、長所も短所も矛盾しまくりな状態で持ったままなのですよウム」という一見《小説的に正しい》スタンスを導入した瞬間、『ストリンガーの沈黙』の行き届いた整理整頓ぶりは、致命的に崩壊するのではないだろうか。それが小説家の腕だとする人間の意見は、個人的には受け付けない。少なくとも、今は。
というわけで、林譲治は、名作『ウロボロスの波動』の質をまったく落とすことなく、今回も素晴らしい物語を紡いだ。単純に感謝と敬意を表したい。