不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

敵/デズモンド・バグリイ

Wanderer2005-12-11

 国の情報機関で働くジャガードは、生物学者ペネローペ・アシュトンと婚約しようとする。ところが折も折、ペネローペの妹が顔に硫酸をかけられる。そしてどうやら、二人の父親ジョージ・アシュトンは、情報機関では最高機密として扱われている人物なのであった。ジャガードは詳細を教えられぬまま、アシュトン一家の護衛を命じられるが、どうも国家の情報機関間で対立が生じているらしく……。
 解説の北上次郎も指摘するとおり、ジョージ・アシュトンとは何者であるか、そして何をやったのかがずっと焦点になり、物語全体に緊密な構成をもたらしている。もちろん本格ミステリとしての謎解きではないが、《アシュトンは何者なのか?》に対する主人公の思いや惑いが丹念に描かれているのが印象的。また終始冒険するわけではないことも手伝い、謀略小説としての側面が強調されている。完成度の高い小説として、これも強くお薦めできる小説となっている。アシュトンを過大評価している気配がないわけではないけれど。
 しかし最後の幕切れは、ちと唐突だと思わされた。ま、人生とはどこで何があるかわからないが、正直申し上げて、人間描写や筆致の点で圧倒されるタイプの小説ではないので、作者がラストでどういう効果を狙ったのか不分明になっていると思う。