不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

死者の靴/H・C・ベイリー

死者の靴 (創元推理文庫)

死者の靴 (創元推理文庫)

 田舎町キャルベイの浜辺で、居酒屋で働いていた少年の死体があがった。彼は州警察のユーヴデイルと密会した後、行方不明となっていた。この件で殺害の容疑をかけられた居酒屋の亭主(怪しげなおっさん)は、ロンドンの弁護士クランクに弁護を依頼する……。
 『死者の靴』は長編だが、『フォーチュン氏の事件簿』と同じく、味のある倫理が作品を締めている。またクランクの助手であるホプリーがキャルベイに夫婦で移り住み、地域社会に溶け込みながらじっくり事件を捜査し、また、事件の解決まで一年近く時間が経過するなど、悠揚迫らぬ歩みで事件周辺の人間模様を描出する。
 確かに作風は古いかも知れない。スピーディーな筋運びを《新しい》とするならば。しかしこのゆったりとしたテンポにより、田舎の空気と美醜入り混じる人間ドラマがじっくり描かれるのは、読んでいて心地よい。構成もまとまっているので、黄金期大好きな方はどうぞ。