不壊の槍は折られましたが、何か?

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空中紳士/江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第3巻 陰獣 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第3巻 陰獣 (光文社文庫)

 乱歩の描く、国際謀略もの。もちろん正統派エスピオナージとはかけ離れており、大袈裟な言葉遣いによる名調子で女性探偵の活躍等を描く。構想も全体的に荒唐無稽である。最後はもはやSFだしな。興味深いのは、乱歩がまだ《通俗もの》の文法や様式を完成させていないことだろう。必死に伏線を張ろうとする*1ところなど、随分と殊勝で可愛い。さらに、筆には相当の戸惑いが感じられ、勢いはあるが、悪戦苦闘の様相を呈す。過渡期的な作風と思料されるが、乱歩の創作全体を俯瞰する観点からは、面白く読めるだろう。

*1:できもしないのに!