悪魔のスパイ/マイケル・バー=ゾウハー
第一次世界大戦末期、エルサレムをめぐる物語。アラビアのロレンス、ケマル・パシャなど、実在の人物も脇に配し、主人公には一組の男女(双方ユダヤ人で、当然ながらイギリス側だが、諸般の事情から女性はオスマン=トルコにスパイを務めるよう強制される)を据える。イスラエル建国前史とも捉えられるスケール豊かな舞台で、作者がユダヤ人へのシンパシーをどうしようもなく溢れさせつつ*1、楽しくエンタメしてくれるのが良い。
もちろん相応に人は死ぬし、国際謀略の闇も感じさせはするものの、陰惨・陰鬱というほどではない。途中で起きる悲劇や惨劇も、ラストに訪れる爽快感あるいは未来への希望を決定的に曇らすほどではなく、むしろ適切なアクセントとして機能しており、また、悪い意味で単純な終末歓呼・勧善懲悪に陥ることを防止している。どこまで自覚的にやっているかわからないが、いずれにせよ娯楽小説としては順当なバランスだと思う。二十世紀初頭の中近東近辺の雰囲気に溢れる佳品であり、広くお薦めしたい一作。
タイトルセンスはご覧のとおり酷いものだが。