不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

復讐のダブル・クロス/マイケル・バー=ゾウハー

Wanderer2005-11-08

 モサドの長官であるペレドは、長年付け狙っていたファタハ指導者の暗殺に成功する。しかしそれは、新たな復讐の幕開けに過ぎなかった。アラファトと密談する謎のドイツ人、アルフレート・ミューラー。彼の計画では、ユダヤ人が一人必要らしい……。一方、アイルランドには、理想と社会正義に燃えるユダヤアメリカ人(でもお坊ちゃん)マイケル・ゴードンが、IRAの活動に参加したいとゴネていた。彼は登場8ページでIRA活動員モーリーン・オドンネルを彼女としてゲットしベッドインするものの、活動への参加自体は彼女とその兄から「お前は向いてないからやめとけ」(理由:純朴過ぎ)と言われ、くさってしまう。そこに、前記ミューラーが登場し、イスラエルに行ってある仕事やったら仲間に入れてやると持ちかける。
 クライマックスがラストに設定されており、物語は、それに向けて次第に盛り上がる。モサド側の捜査やそのもたつき(政治絡みの部分もある)、間抜けなマイケルがモーリーンや彼女の兄とともに陰謀に巻き込まれる過程、そしてミューラーの邪悪な情念と、様々な糸を紡ぎ合わせて緊張感を高めてゆく。復讐の内容こそ序盤からバレバレだが、エンタメとしての完成度は高く、読者を飽きさせない。さくさく読める(展開も割と矢継ぎ早である)のも好ましい。そして、件のラストが絵的に素晴らしい。映画にこのまま使えそうだ。実際の撮影は、デリケートな問題が絡むので多分無理だが。