不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

警察署長/スチュアート・ウッズ

 今月より、新刊中心スタイルを中断して、旧刊中心にしていこうと思う。従って「ええっ、お前これさえ読まずに四の五の言ってたの?」という作品が目白押しになろう。そして原則的には、その都度謝罪してから感想を述べるのが誠意というものだろう。しかし最初のうちはともかく、毎回その断り書きがあっては、読む方も書く方も鬱陶しくなってくる。よって、全てまとめて今日謝っておく。
 こんな基本書も読まずに今まで偉そうなことを言って、本当に申し訳ありませんでした。というわけで、一発目行きます。

警察署長〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

警察署長〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

警察署長〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

警察署長〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

 ジョージア州の田舎町テラノで、初めて警察署長の職を設けることになった。そして初代署長が就任してすぐに、郊外で若者の全裸死体が発見される。捜査を開始する初代署長だったが、それは四十数年にわたる捜査の幕開けに過ぎなかった……。
 テラノの歴代署長(正確には、そのうち要をなす3人)による上記事件の捜査が物語全体の骨子ではあるのだが、最重要テーマは実はそれではない。本当のメインは、1920年代から60年代までの合衆国南部の変遷であり、それをスクリーンいっぱい使って*1大河小説風に活写することこそ、本書最大の特徴であり、最強の魅力である。黒人差別問題が真のテーマだが、過度な重さや渋さを感じさせることは絶対にない。ストーリーテリングも素晴らしくうまい。印象的な挿話を多数用意し、抜群のリーダビリティを具備しつつ、それでもなお「良い小説を読んだ」という実感がある。何よりも、ずしりとしたこの手応え! 瀬戸川猛資絶賛も納得の、大傑作。本当に面白かったです。

*1:比喩ですよ。