不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

アルトゥーロ・トスカニーニ・フィルハーモニック

  1. ワーグナー:《ニュルンベルクのマイスタージンガー》第一幕への前奏曲
  2. シューベルト交響曲第7番ロ短調D.759《未完成》
  3. ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
  4. レスピーギ交響詩《ローマの松》
  5. (アンコール)ビゼー:《アルルの女》第2組曲より《ファランドール
  6. (アンコール)ヴェルディ:歌劇《運命の力》序曲
  7. (アンコール)ヴェルディ:歌劇《オテロ》より舞踏音楽

 全般的に遅いテンポで、綿密に弾きつつ熱気に溢れるという感じ。各声部・音色・モチーフの描き分け等、解像度の高さは特筆すべきだが、随所で聴きなれないルバートやデュナーミクが入るなど、妙な表現が頻出。力を抜いてふっと通り過ぎる箇所は皆無で、演奏者の意識は常に覚醒していると思しく、全ての音符にアンダーラインを付けているように思うほど明晰の極みだが、聴き手の集中力はなぜか求められておらず、漫然と聴き流すことも可能。そしてリズムは重々しくサウンドも大変分厚い一方、全体的に明るくカラッとしている。そして、色々仕掛けてくるにもかかわらず、どうにもわかりやすいというか、表情がくるくる変わるということがなく、えらく豪奢なサウンドで力押しされた感が強い。ところが《未完成》、それも第2楽章のみ、異様に甘いサウンドだったような気もする。マゼールの実演は初めてだったが、なるほどこれは変な指揮者です。オーケストラの制御能力は、私が実演聴いた指揮者の中では多分トップ。この人、やろうと思ったらオケの自発性を圧殺し、全ての音符をコントロールできるはずだ。この日も、オーケストラを手足のように使っているのが見て取れましたよ。
 全般的に少々困惑気味であることを告白しておくが、凄い演奏だったことは確かで、機会があったらまた聴きに行きたい。そうそう、トスカニーニ・フィル自体は、若い人多いとてもやる気のあるオケで技術水準も高く、好感を持ちました。ソロではニュアンスとかあまり出せてなかったようにも思ったが、先述のように指揮者が指揮者なんで何も判断できない……。