不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ウロボロスの波動/林譲治

ウロボロスの波動 (ハヤカワ文庫 JA)

ウロボロスの波動 (ハヤカワ文庫 JA)

 小さなブラックホールが太陽系に近付いてきた。このブラックホールと太陽の衝突回避、および巨大エネルギーの有効活用という一石二鳥を目的に、ブラックホールを中心に直系4,050キロの環状構造物《ウロボロス》が建設される……。
 『ウロボロスの波動』は、六つの短編より構成され、上記のような出来事(@表題作)を起点とした人類の宇宙進出を描く連作となっている。全短編がハードSFとして非凡な出来栄えを見せていて素晴らしい。それも物理・化学・生物・社会とテーマも多様であり、一冊で色々味わうことができる。しかも、自分の描く世界や事象を作者がよく把握しており、読者への提示も簡にして要を極めているので、非常にわかりやすい。私はこの作者をこれまで『記憶汚染』しか読んでおらず、そのバカ展開(貶してはいない)にB級の香りを感じたものだが、『ウロボロスの波動』は疑いもなくガチ作品であり、日本SF史を永く彩ることは間違いない。
 なお、この作品世界はシリーズ化される予定であり、人類は他天体の知的生命に出会い、最終的には銀河の核に到達するらしい。そこまで予め宣言して大丈夫かとも思うが、新刊を期待して待ちたい。