不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

午後の死/シェリイ・スミス

午後の死 (ハヤカワ・ミステリ 1414 世界ミステリシリーズ)

午後の死 (ハヤカワ・ミステリ 1414 世界ミステリシリーズ)

 短めの長編である。飛行機で帰国しようとして砂漠に不時着した英国の若者が、不時着場所近くになぜかいた英国人の老婆に歓待される。彼女は彼に、昔語りを始めるのだったが……。
 奇妙な味わいも含有する、好ましくも洒脱な物語。老女の語る昔語りは裕福な家庭が徐々に歪んでゆく様を的確に描出しており、英国の若者と老女の語らいは、午後の寛いだ雰囲気の中にも微妙な緊張感を孕んでいて面白い。そして物語のオチもとても良いと思った。変に重くないうえに訳文も読みやすく(出版は80年代)、広くお薦めできる佳品といえましょう。