不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

少女には向かない職業/桜庭一樹

少女には向かない職業 (ミステリ・フロンティア)

少女には向かない職業 (ミステリ・フロンティア)

 桜庭一樹が(初めて?)ラノベから一般文芸に打って出た作品。と言っても米澤穂信と比較するまでもなく、テイストはこれまでと全く変わっていない。痛々しい環境に置かれた少女の抗い、闘い。それなのに諦念が溢れているので、読者の感じる痛さは倍加することになる。筆致は微細を極め、主人公の機微の全てに触れると言っても過言ではない。構成も素晴らしく、少女が踏み外してゆく様を一歩一歩、じっくりと描き出す。しかしそれでもなお、作品は簡明さを保つのだ。物語は一段組み231ページと、読みやすくコンパクト、しかもキャッチーにまとまっている。でも物語や少女たちから受けるインパクトは強烈なのだ。
 一方、ミステリとしての特徴は一転して弱い。『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』同様、過去の作品が余韻/残り香としてわずかに漂う程度だ。しかし私はこれはこれで全く問題ないと思う。なぜなら、ミステリの保守本流にガチで挑むことなど、作者は最初から企図していないからだ。ミステリ的な意匠、つまり、殺人というある意味最も先鋭化された他者への干渉を通し、少女の葛藤を描き出すことこそ、桜庭一樹の目的であり、本作最大の魅力なのである。
 というわけで、稀有な才能がまた一つ良い仕事をしたことを、単純に喜んでおきたい。