不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ある日系人の肖像/ニーナ・ルヴォワル

ある日系人の肖像 (扶桑社ミステリー)

ある日系人の肖像 (扶桑社ミステリー)

 日系三世でレズビアン・学生のジャッキー・イシダは、病没した祖父フランク・サカイの遺言状に名のあるカーティスという人物を探し始める……。
 ロサンゼルスの日系人・黒人のマイノリティ社会を背景に配し、フランク・サカイという一目置かれた男の生涯/カーティスの生涯/ジャッキー・イシダの生き様をじっくり描き出してゆく。周辺の登場人物の営みも、大変印象的に記されてゆく。作者の筆は虚心坦懐であり、飾り気がなくどこかに憂愁を秘めたもの。テンポが緩く、もう少し締められたとの印象もあるが、リーダビリティに欠くわけでもなく、まずは満足すべき出来栄えだと感じた。地味な作品ではあるけれど、愛惜の情置く能わず。