不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ホームタウン/小路幸也

ホームタウン

ホームタウン

 北海道の老舗デパートの秘密探偵という、ケレン味しかない設定をもって、普通にハートウォーミングな物語を作り上げようとする無茶が素晴らしい。主人公の上司は、裏の世界では立志伝中の人物らしいし、普通だったら真面目な顔ではとても書けないはずだ。この作家すげえ。妹の失踪事情も、客観的には噴飯ものというか「ハァ?」であり、私にもし創作能力があったら、斜に構えて描出するところだが、小路幸也はあくまで正攻法、《これは心温まるお話なんですよ皆さん》というスタンスを堅持する。
 こういう感性の人もいるんだ、と感じ入った次第。いやまあこういう感性の人いるのは先刻承知ではあるんだが、やっぱ出くわす度にしげしげと見てしまうわけですよ。なお、完成度は高いので、小路ファンには普通にお薦めできると思われる。