不壊の槍は折られましたが、何か?

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女王様と私/歌野晶午

女王様と私

女王様と私

 今回の歌野晶午の小説作りは、実に素晴らしい。《粗筋が言えない=言うとネタバレになる》タイプの作品なので、紹介がしにくいことは確かだが、単発トリックで小奇麗に纏め上げただけの作品ではなく、それに加えて結構ラディカルな側面を持つ作品であるとは言っても良かろう。*1今年のミステリの中では恐らく傑作である。
 しかし問題がないわけではない。弱点は、おたくへの誤解と、その誤解への作者の無自覚である。
 おたくというものは、以下の二つの側面を持っているのだと思う。

  1. 己の趣味の、徹底的な求道者。凄い該博。
  2. 人間として気色悪い。

 『女王様と私』の主人公を、作者は間違いなくおたくとして捉え、描こうとしている。しかし主人公は、上記2の特徴しか持っておらず、1が全くといって良いほど描かれないのである。これでは彼は単なる気色悪い人に過ぎず、おたくとしては成立していない。もちろん小説なので現実に即す必要は全然なく、そもそも主人公がおたくであると考えず、最初から気色悪い人として設計されたのだと思えば、平仄は合う。しかし歌野晶午は間違いなく、そこまで考えておらず、自分の描いた主人公のような人間が「おたく」なのだと信じているように思えてならない。他の登場人物も、主人公のことをおたくと見ているようだし……。厳密に言えば、だからといって作品主題上特に瑕疵とはならないが、この作家の限界が垣間見えたようで少々寂しい。
 ……読み返したが、「作者が主人公のことをおたくだと考えている」根拠を示せていないので頭悪い子の書いた文章になってますね。いや本当に申し訳ない。吊ってきます。

*1:対置される作品名を具体的に書いておりましたが、実質的にはネタバレと思い直し、文面変更しました。前のを読んでしまってた人は、申し訳ないが忘れてください。