不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

アブナー伯父の事件簿/M・D・ポースト

 《フロンティア精神》《アメリカの正義》などと言うと途端に臭くなるというか、言うか書くかした奴の知能指数が下がったような感覚に襲われる。自分では(誉めるにせよ貶すにせよ)決して真面目には使いたくない言葉というわけだ。
 しかし、ポーストのアブナー伯父ものが、そのような価値観を色濃く反映したシリーズであることは間違いない。アブナー伯父は、キリスト教的・タカ派的な全く揺るぎない精神を持ち、神や正義への確信をもって事件に当たる。《偉大》を体現する人物であることは疑いなく、その禁欲的な信念には頭が下がる。作者の筆も、アブナーのキャラに相応しい真面目で力強いもので、骨太なタッチで《悪》との闘争を描出・演出する。
 ミステリ的なネタは単純なものが多いけれど、古典を読まずに頭から舐めている人間が読んだら、捻りが利いていて驚くだろうな、という水準は維持している。個人的にはこれで十分だ。アブナーのような価値観は生理的にダメ、という人以外なら読み応え十分な小説であろう。でも、正義を描くなら、作者もこれ位腹を決めて書かないとね。