不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

世界短編傑作集3/江戸川乱歩編

世界短編傑作集 3 (創元推理文庫 100-3)

世界短編傑作集 3 (創元推理文庫 100-3)

 1925〜29年の作品で構成される第三巻は、いくらなんでもプロパビリティに過ぎるウィン「キプロスの蜂」で幕を開ける。ワイルド「堕天使の冒険」は安定した持ち味を発揮し、ジェプソンとユーステス合作の「茶の葉」は超有名馬鹿トリック及び阿呆な愛の炸裂が見られる楽しい一編(でも多分このトリックは実行不可能。心臓を一突きにするのは滅茶苦茶大変ですから)。バークリーの「偶然の審判」は、事件そのものが『毒入りチョコレート事件』の原型であり、こうして見ると事件だけでもなかなか切れ味鋭いのがわかり、興味深い。ただし本格ミステリへの突っ込みはないも同然なので、信徒としては少々不満。その点、「密室の行者」のノックスは、このような短編であっても諧謔溢れるネタ(ちなみに超有名)を提示してくれるのでさすがと思わせられる。絶対に不可能なトリックで有名なロバーツ「イギリス製濾過器」は、小説としてはなかなか味があって意外。アリンガム「ボーダー・ライン事件」は題名そのまんまの内容で笑ったが、その馬鹿馬鹿しさが、いい意味で更なるやるせなさを誘っておりうまい。ダンセイニ「二壜のソース」は、ネタ自体こそ今や普通(俺はしませんが)だが、作者の筆が素晴らしく、不気味な雰囲気をいやがうえにも高める。クリスティー「夜鶯荘」は、人物像が典型的・類型的であるにも拘らず、いやだからこそ、鮮度の高いサスペンスが楽しめる、いかにもクリスティーらしい作品。レドマン「完全犯罪」は、名探偵の威信を賭けた事件が見られる、興味深い逸品。
 こんなところです。