不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

世界短編傑作集2/江戸川乱歩編

世界短編傑作集 2 (創元推理文庫 100-2)

世界短編傑作集 2 (創元推理文庫 100-2)

 第二巻は1907〜23年にかけての作品を集めている。やはり粒よりで楽しい。
 ルブランの「赤い絹の肩かけ」は、ルパンとガニマールの関係性を象徴するような物語であり、ルパンの振舞いを洒脱に活かす作者の筆運びも素晴らしい。グロルラー「奇妙な跡」やトレント「好打」、ホワイトチャーチ「ギルバート・マレル卿の絵」では馬鹿トリックがいい感じに炸裂しており、笑える。超有名トリック登場のポースト「ズームドルフ事件」は、悪と正義を描く筆致が視点そのものを含めレベルが高いため、小説としても普通に上質。アメリカの正義は今や懐疑の目にしか晒されないわけだが、普遍的なものも中にはやはりあるんだなと思わされた。フリーマン「オスカー・ブロズキー事件」は、若干ご都合主義はあれど、非常に堅実なソーンダイク博士の捜査が好印象。ブラマー「ブルックベンド荘の惨劇」も、やや有名なトリックを使いつつも悲劇的な情感が印象的。クロフツの「急行列車内の謎」は、堅実な方のクロフツがよく出ており、地味めだが確かな手ごたえが良い。コール夫妻の「窓のふくろう」も超有名トリックが使用されるが、ミスリーディングその他事件を混乱させるサブ要素が予想以上に混入されており、なかなか手の込んだ印象を受けた。
 こんなところです。