不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ウォータースライドをのぼれ/ドン・ウィンズロウ

 ニール・ケアリー・シリーズはこれまで悲劇を基調としてきた。しかし『ウォータースライドをのぼれ』は全編コメディタッチであり、ニール・ケアリーは快活な突っ込み役として機能している。繊細で傷つきやすい彼や、哀しみとやせ我慢に満ちた雰囲気を予想すると裏切られよう。……などということは、杉江松恋による解説をはじめ、各所で既に指摘されているのだった。私がこのようなことを書いても、今更感しか漂わない。でも仕方ないじゃん本当にそうなんだから。
 筋運びはスムーズでプロットもよくまとまっており、とても快適に読める。ドン・ウィンズロウの手並みは見事と感じさせられるのであった。絵空事のような登場人物造形が、アメリカに対する風刺劇*1という側面を強調しているのもポイント。東江一紀による訳文も好調を持続。特に、ポリーの科白訳出は感涙ものである。
 作品に対する感想としては以上ですが、創元推理文庫の未完結シリーズであれば、ニール・ケアリーよりもフロストの方が私は遥かにお気に入りなわけで、新作が出る予定すら見かけないのは心配である。早く何とかして欲しいです。

*1:これもまた、各所で言及されていることに過ぎない。